矢沢永吉50年の軌跡と『逃亡者』|76歳ドーム快挙までの進化の歴史を徹底解説
本作のクオリティを決定づけた最大の要因は、徹底したロンドンレコーディングと、作詞家・西岡恭恵の起用にある。
当時の英国はニューウェイヴやポストパンクが成熟し、先鋭的なデジタル録音技術と伝統的なリフワークが融合していた時代だった。矢沢はこの刺激的な現場に単身飛び込み、現地の一流ミュージシャンおよびエンジニアと火花を散らした。硬質でリバーブの効いたスネアドラム、乾いたカッティングギター、うねるベースライン。それらは日本の歌謡界が模倣できなかった本場のグルーヴそのものだった。
そこに決定的な詩情を与えたのが西岡恭恵の手による歌詞である。代表曲「逃亡者」の歌詞には、背中を向けた男の焦燥、夜のハイウェイ、冷めた都会の湿度が生々しく描かれている。キャロル時代の不良性や「成りあがり」期のギラギラした上昇志向とは異なり、傷を負いながらも孤独に立ち向かう成熟した男のロマンシズムが、矢沢のウェットかつ力強いメロディと完璧にシンクロしたのである。
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